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ひとりになりたがるくせに寂しがるんだね。
それは、おかしくて、美しくて、少し悲しい、ある友情の物語。
うるう年のうるう日のように、「余りの1」が世界のバランスをとることがある。これはカレンダーの話だけでなく、人間もそう。
世界でたったひとりの余った人間「うるうびと」。彼が少年と友達になれなかった本当の理由とは…。
小林賢太郎が贈る、大人のための児童文学。
脚本・演出・出演:小林賢太郎
音楽・演奏:徳澤青弦
KOBAYASHI KENTARO WORKS
※以下、ネタバレ!
尚、個人的な解釈・記憶違いが多々あるかとは思います。あしからず。
◆K.K.P.#8 『 うるう 』
1月11日(水)福岡公演(西鉄ホール)
縁あってチケットを譲っていただけることになり、観劇に至りました。
座席番号は、上手寄りの席でした。
ひとり芝居ということで、舞台は小さめ。
上手には、チェロの置かれた徳澤さんの演奏スペースがありました。
「あの森に行ってはいけません
うるう という おばけが でますから
高い 高い 木の上で
うるう うるうと ないている
こわい おばけが でますから」
『うるう』というおばけが出ると言われる森の奥に、男は住んでいる。
男は羽根ペンで記録をしながら、樹齢1000年を超える大木・グランダールボに話しかける。
「にんじんとねぎを一緒に植えたら、ねぎの殺菌効果により、虫がわかなくなりました。」
彼はオフホワイトのシャツにつぎはぎだらけのズボンをサスペンダーで吊り、年齢にそぐわない真っ白な髪をしていた。
男の名前はヨイチ。この森で植物を育てながら、ひとりで暮らしていた。
ヨイチは、いつだってひとり、余ってきた。
学校で、2人3脚で、組体操で、必ずひとり余った。
突然ウサギ取りの罠の音が鳴り、喜び勇んでそこへ駆けつけると、そこにいたのはウサギではなく、人間の男の子であった。
ヨイチが少年を穴から引っ張り出すと、少年は「おばけだ、食べられる!」と騒いだ。
「おばけじゃない!私は人間だ!君のことも食べない!」
少年が言うには、この森には高い木の上で「うるう、うるう」と鳴く『うるう』というおばけがいて、人間を食べるから、森には入っていけないのだと、学校の先生に言われたそうだ。
「それは多分、ふくろうの鳴き声じゃないかな。ほら」
木の上で、ふくろうが鳴いた。確かに、うるう、うるうと聞こえる。
子供が森にはいると何かと危険があるので、大人たちがそういう話を作ったのだろう。
「ところでどうやってここまで来た?一番近い道路から、大人でも歩いて1時間くらいは……え?15分くらいで来た?」
どうやら、近くに新しく道路ができたらしい。
好奇心旺盛な8歳の少年は、マジルと名乗った。
「おじさん、ひとりなの?」
「そうだよ、おじさんはここでひとりで住んでる。君はひとりぼっちじゃないんだから、帰りなさい」
「…僕もひとりぼっちなんだ」
森にひとりで暮らすヨイチは、マジルのその言葉に自分を重ね合わせた。
「そうか…よかったら、おじさんに話を聞かせてくれないか?」
マジルのクラスは全部で、31人。
運動会で、30人31脚をするこになった。
31=30+1
ひとり余ったマジルは、監督になって、クラスを勝利へ導いた。
英会話の授業で、2人1組になった。
31=2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+2+1
ひとり余ったマジルは、外国人の先生と組んだ。とても身になった。
文化祭の合唱コンクールで、5人ずつ列に並んで歌うことになった。
31=5+5+5+1
ひとり余ったマジルは、ピアノの演奏をした。
「……それは余ったって言わないの!選ばれたっていうの!」
そう、マジルはただのクラスの人気者だった。ヨイチとはまるで正反対の。
「帰りなさい!いいかい、ここで私に会ったことは、誰にも言っちゃいけないよ。ほら、帰った!」
そうしてヨイチは、無理やりマジルを追い返した。
翌日。
ヨイチはラジオで世界陸上大会の中継を、実況しながら聞いている。
「昔の記録と照らし合わせてみよう」
ヨイチは長年こうして暮らしているので、オリンピックや世界陸上大会の何年分もの記録をしていた。
開いた本のページの隙間から、はらりと赤い葉が落ちた。カナダオリンピックの年だったから、カナダの国旗ににた葉を挟んでおいたのだ。
ウサギ罠に、獲物がかかる音がした。だがそこにかかっていたのは、またしてもマジル少年だった。
「なんでまた来たんだ、もう二度と来るなと言ったろう!……え?それは言ってない?」
そう言われてみればそうだった。
「おじさんはどうして、おじいさんみたいな髪をしているの?」
「おじさんはどうして、おじいさんみたいな髪なのに、顔や体はおじいさんじゃないの?」
「おじさんはどうして、つぎはぎだらけのズボンを履いているの?」
「おじさんはどうして、左右で違う靴を履いているの?」
「ねえねえ、あれなあに?」
適当に流していると、マジルは、埃をかぶった、とある機械に興味を示した。
「ああ、これかい?これはタビュレーターといって、数を数える機械だ。…そうだよ、私が作ったんだ。」
「なんでも数えられるの?」
「1000万までなら」
「これで一緒に、友達の数を数えようよ」
「どうして私が君の友達の数を数えなきゃならんのだ。そんなことより、ウサギの捕り方の方がよっぽど知りたいね」
「違うよ、おじさんの友達の数だよ」
「……私の?」
「そう」
「私に友達なんかいない。数えるまでもない、『0』だ!」
タビュレーターに『0』の数字。
「じゃあ僕が友達になってあげる」
「……君が?…何を言ってるんだ。君と友達になるには年が離れすぎている」
「おじさん何歳なの?」
「…38歳だ。考えても見ろ。君のお父さんが8歳のこどもを連れてきて、友達だ・なんて言ったら変だろう」
「ううん、僕も一緒に遊ぶ」
「とんだ人格者だな。もう帰りなさい。いいかい、ここで私に会ったことは、誰にも言っちゃいけないよ。そして、もう二度とここへは来るな。ほら、帰った!」
ヨイチは、今度はちゃんとそう言って、マジルを追い返した。
ところが、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、マジルは森へやってきた。
やってくるだけならまだしも、しつこく友達になろうと言い続けた。
ヨイチも飽きずに、いつだってこう返した。「友達には、ならない!」
「これなあに?」
「こら、勝手に見るな」
スケッチブックに描かれた、年齢も性別もばらばらな、たくさんの人物たち。
「この絵、おじさんが描いたの?」
「…そうだよ」
「なんで描いたの?」
「なんでって……好きなんだよ、絵を描くのが」
「おじさんはあの機械で、どうして色んな数を数えたの?」
「なんでって……楽しかったからだよ、色んな数を数えるのが」
いつからか、マジルは「友達になろうよ」とは口にしなくなった。
だからヨイチも「友だちには、ならない!」と口にすることがなくなった。
ある日、マジルはヨイチに、1枚の紙切れをくれた。
そこに書いてあったのは、童謡「待ちぼうけ」の歌詞。
待ちぼうけ 待ちぼうけ
ある日せっせと 野良かせぎ
そこへ兎が飛んで出て
ころり ころげた 木のねっこ
マジルは、音楽室で一生懸命写してきた、ウサギの捕まえ方が載っていたから、と言って、それをくれた。
以前「ウサギの捕り方の方がよっぽど知りたい」と言ったのを覚えていてくれたのだ。
ヨイチはそれにたいそう喜んだ。人から贈り物をされるなんて、どれくらいぶりだろうか。
そして同時に、申し訳なくなった。なんども突き放しているというのに、彼はこうしてここに会いに来てくれる。
「ちょっと、一緒に来てくれないか」
そう言ってヨイチは、森のもっと奥の奥にある広い畑に、マジルを招き入れた。
「ここは、私の秘密の畑だ。広いだろう?なんでもあるぞ。あれがにんじん、ねぎ、キャベツ、トマト、いんげん、あのへんは麦だ」
それからふたりは、作物に水をやったり、採れた大きな野菜を一緒に食べたりと、一緒に過ごした。
その日の夜、ヨイチは嬉しそうに、マジルからもらった紙片をグランダールボに見せた。
「見て、これ。マジルがくれたんだ。これは別にウサギの捕り方ではないが、それでも、私はとても嬉しいんだ」
だがグランダールボはいい顔をしなかった。
「…わかっています。私と彼は友達になってはいけない。私はひとりでいなければならない。
人の数を数えていたのは、楽しかったからなんかじゃない。私以外のひとりぼっちを数えるためだ。
絵を描いていたのは、好きだったからなんかじゃない。数えるのに重複を避けるためだ。
僕が友達になれないのは……いや、それだけはマジルに言っちゃいけない!
……はい。明日、彼にすべてを話して、すべて終わらせます」